最近でこそ「予防」という言葉は、当たり前のように使われていますが、約30年前までは歯科医療の世界には予防という考えはありませんでした。「悪くなってから治療を行う」ことが歯科医療の常識だったわけです。
しかし、1970年代のスウェーデンで行われた大規模な予防プログラムの導入により、国民の歯の健康状態が飛躍的に向上しました。 世界で初めて予防の重要性を打ち出したのは、スウェーデンのイエテボリ大学で、1960年代から長期にわたる膨大な調査を行い、対症療法(悪くなってから治療を行う)が中心だった歯科治療を一変させました。
口腔疾患に最も有効なのは、プラークコントロール(歯垢除去)だということを証明したのです。
その結果、今の日本とスウェーデンの80歳時の残存歯状況を比べてみると、
と非常に大きな差が生まれています。
日本では今でも「年を取れば歯を失うのは仕方ない。」と考える方が多いと思いますが、予防先進国のスウェーデンでも、30年ほど前までは日本と同じような状況だったことを考えると、スウェーデンの導入した「予防」という考えは、確実に歯科医療界を変えたと言えるでしょう。
予防歯科の導入により、スウェーデンでは1979年に3歳児のむし歯保有率が80%だったのに対して、6年後には4%に減少するなど大きな成果をあげています。
スウェーデンの予防教育の徹底ぶりを考えると、毎日の歯磨きもさぞや熱心では?と思いますが、1日の歯磨きの回数を比べると、スウェーデンよりも日本の方が多いそうです。つまり、歯磨きは大切ですが、定期的にプロのケアを受けてらうことも大切だということです。
間違った方法でゴシゴシ磨き続けることで、知覚過敏を起こしたり、歯肉を傷つけてしまうこともありますから、そのような行き過ぎたケアにならないためにも歯科医院でチェックしてもらうことが大切です。
一度治療してから「何かあったらまた来てください」では、また患者様を危険にさらしてしまうことになります。
メインテナンスを続けて、再発や新たな病気を予防しなければ、本当の治療とは言えません。再発させないことが歯科医院の役割なのです。
ここまでの話しをまとめますと、歯科医院は決して「歯が悪くなってから仕方なく行くところ」ではありません。
「治療が終わったら通院は終わり。」
という意識から、
「治療が終わった時から歯科医院との本当のお付き合いが始まる。」
「むし歯、歯周病などの疾患のない状態の時から通い、病気にならないようにするところ。」
という意識へ変えることが、健康な歯を守る第一歩だということです。
見た目をきれいに保つために、誰に言われなくても自ら美容室に行きますよね。
歯科医院も、口の中をきれいに保つために行くところと考えてください。
歯科への意識が高まりつつある昨今、むし歯治療や歯のクリーニングは別として、歯列矯正やホワイトニングのような審美治療や、インプラント治療となると“費用が高い”と思われる方は多いかもしれません。
しかし、美容や身体にかけている他の費用と比べると、実はそう高いというわけではありません。
例えば5000円の整体に体調改善のために2週間おきに行くと月に1万円かかります。
ジムの会費も月8000~1万1000円と考えれば、年間で約12万円程度です。
健康管理のための人間ドックでは年3万~8万円ほど。
女性であれば、ネイルを3週間おきに月7000円使うと、年間で12万円ほど。
美容室も2か月に1回、カットやカラーで平均1万円として、年間6万円ほど。
このような費用がかかっていても、多くの方が定期的に通われています。
逆に歯のケアは怠りがちになりやすいですが、歯周病対策のための検診とクリーニングは、3カ月1回3000円弱。
歯列矯正で80万円かかったとして、もし40年間歯を使うと考えると、1年で2万円。
インプラント治療を選択しなければならない状況になる前に、むし歯予防や歯周病対策をしっかり行なっていれば、実はそれほどの出費ではないことがわかります。
重要なことは、一度削った歯や歯周病にかかってしまった歯は、元には戻らないということです。
そして、もとの健康な状態よりも、その後の再発リスクが高くなってしまうのです。さらに治療にはお金がかかるだけでなく、通院のための時間が必要になり、痛い思いもしなければなりません。
ネイルや美容室はいつでも止めることができますし、お金さえあればまた始めることができますが、歯科の場合、どんなに治療を行ったとしても、それは「延命処置」でしかないのです。
もう一度よく考えてみてください。
ご自身の歯で、一生しっかり噛んで美味しいものを味わい、豊かな人生を送りたいとは思いませんか?
もし、お考えいただけるのなら、躊躇せず歯の定期検診とクリーニングをぜひお受けください。